その日は狩りで珍しく、
禮極(れいきょく)会得後でありながら、
アシュナスが右腕を骨折し、
全身を負傷した日であり、
舟着場からキアンディナに
肩を支えられながら
住まいに向かっている最中であった。
ちょうど石ころ置き場を通り過ぎる頃、
アシュナスとキアンディナは
老人に呼び止められた。
その老人こそ
エニファル村に残った
アシュナスとキアンディナ、
ゼイゴウを除く最後の一人であった。
「アシュナス。聞いたぞ…。
賢者がゼイゴウに
会いに来ておったのでな。
隣村のフディアトが
一人残らずいなくなったと。
隣村は遠くの村と
一つになるそうだな。
それも、突然村にタラトットが
現れ、自在者は
寝込みを襲われ重傷を負い
帰らぬ人になったと。
“また”突然じゃ。
あまりにも酷い。
ゼイゴウがああなった今…。
もしも、
お前たちがタラトットに
殺されでもしたら…
そう考えると夜も眠れん。
もしお前たちが
死んだらと思うと…。」
アシュナスと
キアンディナは
老人の目を見た。
老人は想いのたけを二人に吐露した。
「もし…お前達が
死んだら
ワシの事は誰が守るんじゃ。」
それが
アシュナスの聞いた
老人の最後の言葉だった。
キアンディナの瞳に
悲しみが宿った。
それはアシュナスが
ゼイゴウの欠損以来見た
キアンディナの深い悲しみの
瞳であった。
そして、少なからず
自らの負傷がその悲しみの
起因となっていることも
アシュナスは理解していた。
キアンディナの悲しみの瞳は
次第に怒りに満ちていった。
老人の言葉には、
隣村のフディアトにも、
そして自らの村のフディアトにさえ、
向けられた慈悲の心が
雨粒の一滴ほども無かったからだ。
キアンディナは
声を振るわせ
「礼の一言も無しかい…?」
と言った。
アシュナスは
右腕に激痛を感じながら
左手でキアンディナの肩に手をやり
落ちつかせようとした。
だがキアンディナは声を荒げ
老人に叫んだ。
「命を賭けて戦ってるアシュナスに
かける言葉がテメェの保身に
ついてだぁ!?ふざけんなよ
クソジジイ!!あたしが
叩きのめしてやろうか!!」
老人は慌てて自宅に逃げ帰り
後日エニファル村の近くに現れた
小さなタラトットが
飛ばした小さな矢で喉を貫かれあっさり
命を落とした。
アシュナスは回復しつつあったが
駆けつけた頃には老人は絶命していた。
キアンディナは
石ころ置き場に
適当な石を一つ置いた。
アシュナスは
決して自らを癒しはしない
その記憶を後に
繰り返される日々へと身を投じた。
確かに流れる日々の中にありながら、
時の止まったような感覚に
囚われていたアシュナスを、
自身の怒りの元凶の一つである
賢者の冷笑が強烈な今へと引き戻した。
気付けば、それは
アシュナスにとって
いつにもまして
輪をかけて酷い狩りであった。