石舟に乗り、
エニファル村に向かうアシュナスは
はやる気持ちを
おさえることなど、
できるはずもなかった。

アシュナスの目的は
堅き鱗のタラトットを
狩ることから、

キアンディナの復活へと
変貌を遂げていたのだから。

そしてアシュナスは
察知していた。
自身が干渉者として
理解している存在のことを。

どこかで男が微笑んだことを。

微笑みはただの笑みではなく、
詩のようにも感じられた。

メルティリナの語った
もう一つの女神伝説が
アシュナスの頭をよぎった。

『女神はヨルグナから現れた。』

…もしかすると、ヨルグナとは
侵食し、人を霧と化す存在以上の
“何か”であるのかもしれないと
アシュナスは考えた。

アシュナスはキトの詩を
思い出していた。

『ニルヴァルク』

そうアシュナスは言葉を発した。

ある者は巨石を見た。
ある者は天蓋(てんがい)を見た。

全てであり…

ならば…ある者は
『戸』を見たのではないか?

あるいは『道』を。

アシュナスにとって
エニファル村への帰路が
安置されたキアンディナを
守ること以上の意味を持ち始めた。

アシュナスは
身を委ねる決断をしていた。
忌み嫌い、避け続け、
浄化し続けた滴る漆黒の闇である
ヨルグナが、
そのヨルグナこそが、
キアンディナへ
通じる道なのではないか?
という一縷(いちる)の望みであり
“確証の無い”考えに。

エニファル村に到着したアシュナスの心が
揺れることは決して無かった。

覚悟はすでに決めていたからだ。

だが並のフディアトであれば
卒倒していたに違いないであろう光景が
そこには広がっていた。

賢者の告知どおり、
村を埋め尽くさんばかりの
おびただしい数の
タラトットが
エニファル村に発生していた。

神々が遊び半分に作ったような
エニファル村の建造物の数々は
粉々に砕かれ、
遊具箱をひっくり返し
中身を崖下に全て投げ捨て
落石でもって砕き散らしたかのように
建造物は倒壊していた。

アシュナスは焼け焦げた建造物や
ところどころ火の立ちのぼる村の光景を見て
火を吹く化け物の存在をも確信した。

そして恐らく
堅き鱗もこの群れの中にいることを。

村の各地にいた化け物どもは
次々とアシュナスに向かって来た。

アシュナスは
時には石舟に乗ったまま、
時には石舟から飛び降り
次々と化け物を切り伏せ
種を割り続けた。

アシュナスは化け物に応じて
自在器たるフディアで
刀を、槍を、弓を、縄を現した。

大概の化け物に対しては
刀で切り伏せ、
現した切先で
種を砕き割った。

高きタラトットは
概して種を高所に備えていた。

アシュナスはフディアの現れを縄とし、
タラトットに掛け、引き寄せ、
その身をよじ登り、種を割った。

飛翔する化け物には矢を。

狭き箇所に種を隠す化け物には
槍を現し、突き割った。

アシュナスは時折、
ヨルグナを僅かに浴び、
聖水で浄化した。

時にまばらに
時に群れとなり、
時に列をなし、

化け物どもは、村の各地から
アシュナスに吸い寄せられるかのように
集まった。

アシュナスは斬り裂き、突き割り、
矢を射っては縄を駆使した。

一体、また一体と、
化け物の種が割られ、
光がそこかしこを舞った。

化け物が次々と迫ることは、
アシュナスにとってむしろ都合が良かった。

『化け物どもを探す手間が省ける。
どのみち、全ての種を叩き割るつもりだ。』

アシュナスはそう思った。

化け物は細切れになり、粉々に砕けた。
斬られた火を吹き出す化け物の欠片は
四散し、他の化け物を炎で包んだ。

アシュナスの禮装は次第に裂け、
傷み、肌の各所から血が滲み、
体力も霊水も確実に減っていった。

だが、アシュナスの
気力がすり減ることは
微塵も無かった。

アシュナスの脳裏に幾つかの
考えが浮かんだ。