アシュナスは
迫り来る数多の化け物の
種を砕き続けながら考えを巡らせた。
ニルヴァルクという言葉を知った者が
女神の異説を聞き、
ヨルグナに新たな可能性を
見出したその日に、
その者にとって
大切な人の眠る自身の村に突如として
タラトットが群れをなして現れ、
自ら目掛けて襲い来る…。
これが偶然であるはずがないと。
まるで『干渉者』は
キアンディナへと通じる戸を、
道を閉ざそうとしているかのように
アシュナスには感じられた。
アシュナスは
思考を巡らせた。
干渉者が“本当に存在する”として、
なぜタラトットを
大量に出現させたのか。
いや、なぜ、
“大量に出現させることしか”出来ないのか?
おそらく、
その者は微細には
タラトットを操作できず、
『蒔く』ことしか出来ない。
それも、“特定の期間内”にしか。
そしてその戸の隙間は
ほんのわずかの
期間しか空いていない。
その期間とは
おそらく『揺らぎ』。
そして『揺らぎ』は
キアンディナの淵入りと
密接に関係している。
ヨルグナに侵蝕されるほど
キアンディナに何かが起こった時、
この世界にタラトットを
通して僅かに干渉が出来る。
大量にタラトットを撒いたり、
タラトットの最後の光を通して
何かを見せたり。
逆にいえば、
キアンディナにこれから
新たな揺らぎが
起ころうとしているのではないか?
それは確証の無い決断に
身を委ねた者、
つまりアシュナスの到着と
関係があるのではないか?
つまり、それは僅かでも
キアンディナ復活の可能性を
示しているのではないか?
そしてその可能性こそを
干渉者は拒んでいるのではないか?
アシュナスは思った。
キアンディナの
復活を拒む存在が
何者だとしても、
それが『慣わし』を遥かに超えた
厳格なる『世界の理』だとしても、
自らの行手を阻むなら
その全てを退け、断ち切り、
徹底的に破壊し、
その理ごと砕き割り、
灰塵に帰してでも、
キアンディナの元へ
辿り着いてみせると。
アシュナスの目に
いっそう力が宿った。
しばらく時が経ち、
アシュナスは自在器たるフディアを
振るう事を止めた。
先刻までエニファル村に大量発生していた
化け物の行列は既に存在しないからだ。
おびただしい数の種が
アシュナスによって割られ
光を放ち、残骸の数々が消え去った。
アシュナスは
ゼイゴウ邸の前で石舟から降り、
祈り舎に向かった。
祈り舎の屋根は砕かれ、
飯種樹園も焚き火場も
修練場も荒らされ砕かれ
三者の住まいも倒壊していた。
アシュナスの小庭に生えていた
美しい灰色の木は、
折れ、焼かれ、
今はただ、
炭となった一本の枝に
一枚の葉を残すのみであった。
だがキアンディナの入った棺は
多少のヒビこそあれ、
中のキアンディナは
問題なく眠るように存在した。
アシュナスは安堵し、
視線を移した。
佇む怨敵、
堅き鱗のタラトットに。
そして、
ヨルグナに侵食され、
夜霧の如く消えゆく
自らの師を見据えた。