アシュナスは袖の無い男に続けて叫んだ。
「分かってるな?少しでも触れたら
ティルタを飲め!」
アシュナスは
禮筒(れいとう)の用途を
袖の無い男に示し、
かの聖水の名を叫んだ。
その瞬間、
タラトットはヨルグナを解き放った。
ヨルグナは漆黒の中に煌めきを伴い
ダラドロどろりと
魔界の泥の如く男達に
広がり迫った。
煌めく漆黒の淵たるヨルグナは
気を失い地面に仰向けに転がる
図体の大きな男の傍(かたわ)らに
ドシャドシャと落ち、
大地にじわりじわりダラドロと
広がるや否や、男の身体に触れ
みるみると侵食を始めた。
アシュナスは
図体の大きな男の方に
チラリと目をやった。
その目には蔑(さげす)みの様相などなく
自責の念さえ伺えた。
なぜ男はそんな運命に
ならなければならないのか。
といったような
理不尽を呪うような憐みの目であった。
そしてアシュナスは
タラトットに鋭い視線をもどした。
逃げる袖の無い男にも
ヨルグナは容赦なく迫り飛んだ。
ドシャァ!!と音を立て
袖の無い男をヨルグナが捉えた。
ヨルグナはあっという間に
ダラドロと袖の無い男を
顔も分からぬほどに侵食した。
袖の無い男は
ヨルグナに
全身染め上げられたかのような姿になり
ドサッと地面に倒れた。
地面には
袖の無い男と図体の大きな男の
二つの人間の形をした
ヨルグナが転がっているように見えた。
だがそれも束の間のことであった。
程なくして
全身がヨルグナに
侵食された図体の大きな男の
体がサラサラと霧消し始め
やがて体は跡形もなく
消え去り、後には衣服と
装備のみが残った。
ヨルグナに侵食された
袖の無い男のみが
ただ狩りの地に転がっていた。
タラトットから
解き放たれたヨルグナは
何の容赦もなく
アシュナスにも迫っていた。