アシュナスに迫った
ヨルグナの塊の巨大さは
図体の大きな男と
袖の無い男の比では無かった。
アシュナスは
ヨルグナを最小限の歩みで避けた。
一滴のヨルグナの雫(しずく)が
切り離されアシュナスの頬にあたった。
ヨルグナは
じわじわとアシュナスの頬を侵食し始めた。
アシュナスはそのまま
化け物に向かって歩み続け、
禮筒(れいとう)に手をやり
栓を片手であけ
一口の聖水を飲んだ。
頬のヨルグナはあっという間に消え失せた。
アシュナスは
その間決して
化け物から目を逸らさなかった。
アシュナスは
一歩また一歩と進んだ。
タラトットから生える
大小様々な蔓(つる)の如き
鱗肢(りんし)は
枝のようでもあり、
手足のようでもあった。
ある蔓の如き鱗肢は
頭の如きを支え、
ある鱗肢は
種を守っているように見えた。
タラトットは大小様々な鱗肢を組み合わせ、
より禍々しい巨大な鱗肢を作った。
禍々しい巨大な鱗肢には
無数の牙のある口の如きが開いており、
潰されるか、肌を削りとられるか
噛みつかれて肉を割かれ骨を砕かれるかを
迫るかの如くアシュナスに向かって
豪速に伸びた。
アシュナスは
地面から軽く飛びあがった。
大木の如き、鉄槌の如き
禍々しい巨大な鱗肢(りんし)は
アシュナスの足元の地面を
えぐった。
アシュナスはそのまま
巨大な鱗肢に飛び乗り、
刀の如き現れを突き立て、
鱗肢を切り裂き進み、
次の瞬間には
タラトットの顔の如きを横に割いた。
止まらず刀の如きフディアを振るい、
また振るった。
整備されていない
森に分け入る様に、
アシュナスは
タラトットを切り裂き続けた。
右手にフディアを持ち変え、
左手に変え、上に下に、
振るって振るって振るった。
鱗肢を、三つ葉を、顔の如きを、
どれもかまわず
切って切って切って切り刻みに
刻み倒した。
各々は細切れになり。
舞った。
欠片となり屑と化し、
微塵となり、切れ切れになり、
地面にバラバラと
裂かれ降った。
アシュナスが
自在器たるフディアを
振るうのを止めた時、
アシュナスの見下ろす地面には
巨大な顔の如きも、
大小様々な無数の鱗肢をも失った
タラトットの種が転がっていた。
地面に転がる
タラトットの種には
自らを守る鱗肢は
とうに斬り散らされて
一つとして残っていない。
アシュナスは刀の如き現れを
タラトットの種に突き立て
力を込めて体重を乗せ、
地面に向かって自在器たるフディアを
突き下ろした。
種は
鈍く乾いた音を立てて砕けた。
種の中から
柔らかで静かな光が
いくつも現れた。
いくつかは
天高く上り、やがて見えなくなった。
そしていくつかは
現れてはまもなく消えた。
いくつかの光は
アシュナスの眼前を昇り、
アシュナスの顔を静かに照らし、
次々と消えた。
それはアシュナスにとって、
見慣れたいつもの光景であった。
そこまでの光景は。
だがその日は違った。
それは起こった。
そしてアシュナスは
それを見た。