石舟に載せられ、
夜風を十分に浴びたフディアは
人の手で容易に持てるほどの
熱さまで落ちついていた。

アシュナスは
井戸の付近に石舟を留め、
徒歩で滝に向かい、
禮装を脱いだ。

袋は禮装の側に置き、
フディアをその手に持ち、
一禮をして滝へ入り、
フディアと共に打たれた。

しばらく刻が経ち、
己の意か、
あるとするならフディアの意か、
あるいはその両方の意が
滝行の終わりを告げ、
アシュナスはフディアと共に
滝から上がり、一禮をした。

アシュナスはまず
フディアを布で拭き、
次いで自身を別の布で拭いた。
それから
深い藍色の闘着を着て、
胴当てを身に付け、紐を結び、
靴を履いた後、フディアを
研磨布で磨き始めた。

フディアはあるべき姿に限りなく近づいた。
研磨を終えたアシュナスは
フディアに四つの律氷たる
シアレイシェムをはめ込んだ。

大きな角ばった律氷が二つ。
小さな円形の律氷が二つ。

大きな律氷には手の平を当てる事で力強く、
小さな律氷には指先を当て鋭敏に、
意志をフディアに伝える。

そのような意図を持って
アシュナスは四つの律氷たる
シアレイシェムを創り、
自身のフディアにはめ込んだのだ。

アシュナスは笠と羽織りを着用し、
腰に禮筒をさげ、
タラトット狩りと同様の禮装となった。

フディアの研磨を終え、
禮装姿となったアシュナスは
フディアを持ち、
そのまま川へと向かった。
そして、掲(かか)げたフディアと共に
川の流れに胸のあたりまで浸かった。

その日の川は穏やかで
アシュナスを
押し流しはしなかった。

アシュナスは
目を閉じた。

アシュナスには自身と川の流れ、
そしてフディアとの境が無いように
感じられた。

アシュナスは目を開け、
フディアを両手で頭上より高く掲げ、
月に向かって頭(こうべ)を垂れた。
それは曇りなき禮であった。

月明かりが
アシュナスのフディアを照らした。

フディアは白き器となり、
ついに真の姿を現した。

日の光を浴びた霊木、
業火と金槌による錬磨、
夜風と霊水、そして月明かり。

それらすべてを経て、
アシュナスの自在器たる
フディアは完成した。

それは
白き円月の夜のことであった。

そしてアシュナスは、
自身のフディアの核たる
庭木を今もなお描き続けている。

アシュナスは
禮装の浄化と修復の頃合いを察し、
灰色の木を描くことを終えた。

浄化の間から禮装を取り出し、
闘着を着用した。

アシュナスは
日が暮れる頃、
飯種をいくつか食し、
静かに眠りについた。

翌朝。

アシュナスは
いつものように
日々の所作に取り掛かった。

飯種樹園で水をやり、
飯種を摘み、
所定の場所に置き、
キアンディナに報告し、
修練を行う。

浄化を行い、
時折、水山へ向かう。

そのような日々が
数日続いた。

ある日、エニファル村の中央。

ゼイゴウが日々祈りを捧げる方角に
聳(そび)え立つ、
紋章塔の頂(いただき)にある
律氷たるシアレイシェムが光を放った。

それは
『召喚光』と呼ばれる光であった。

賢者が各村から
フディアトを
集いの地へ集めるための
光の合図である。

紋章塔の頂にある
シアレイシェムは
賢者の意志によって
光を放つ。

召喚光が光った村から
必ず最低一人は
フディアトが集いの地へ
向かわなければならない。

もうじき、
狩りの地にタラトットが
現れるのだ。