自在者たるフディアト達はそれぞれ、
自らの村の紋章が刻まれた笠を被り、
見ようによっては求道者のような
装いに身を包んでいた。

アシュナスは
手に自在器たるフディアを構え、
『闘着(とうぎ)』と呼ばれる
濃い藍色の衣服の上に
白い羽織りを着用し、

胴回りには耐久性と弾力性を備えた
白い胴当てを装備し、
胴当ての上から
紐で腰回りを縛っている。

足元を覆う靴は、
白と濃い藍色を基調としていた。

腰には禮筒(れいとう)を下げており、
かの聖なる水も充分に満たされていた。

それらの装いは
禮装(れいそう)と呼ばれた。

自在律想(じざいりっそう)の
理(ことわり)を基本とするフディアト達は

自在の者や律想士など、
様々な言葉で呼ばれた。

しかし一般には、
単にフディアト。

あるいは、
自在者たるフディアトと
呼称された。

同様に、
彼らが携える特殊な器(うつわ)もまた
様々な呼ばれ方をしたが、

一般には、フディア。
または、
自在器(じざいき)たるフディアと
呼ばれた。

フディアト達は
自在器たるフディアに
かの、女神由来の霊水を現し、
タラトットを狩る。

フディアは柄、
または基盤に相当し、
“現れ”は刀身や穂先に相当する。

そして、この現れの正体こそ、
フディアトの意志を映し、
自在に形を変える
『霊水ティアマナシア』なのであった。

アシュナスのフディアは
見ようによっては剣のようにも見え
楽器の弓のようでもあった。
アシュナスは自在器たるフディアに
刀の如きを現した。

アシュナスの左側に立つフディアトは
アシュナスよりも図体の大きな男であり、
槍の柄(え)のような
棒状のフディアを所持していた。
図体の大きな男の意志による
現れもまさに槍の先のようであった。

アシュナスの右側に立つフディアトである、
アシュナスよりも小柄な
袖の無い男の持つ自在器たるフディアも
槍の柄(え)のような
棒状の形状をしていたが
先端に刃を現せる形になっており、
薙刀(なぎなた)を握っている
ように見えた。

傍目にはそれぞれ
刀、槍、薙刀を持った三人の男が
化け物と対峙している様子に見えた。

化け物たるタラトットを前に、
三者は三様の態度を示した。 

アシュナスの左側に立つ
図体の大きな男は
槍の如き柄を握り絞めながら震え
アシュナスに叫んだ。
「お…おい!アシュナス!
あ…あれをどうにかしろ!」

アシュナスの右側に立つ
小柄な袖の無い男も動揺を隠せず怯え、
アシュナスに向かって
「お前…鬼神なんて呼ばれてんだから
狩りには慣れてんだろ!?」
と言葉を発した。

続けて図体の大きな男が
アシュナスに槍の如き矛先を向けて叫んだ。
「もたもたしてると
テメェにこれをぶっ刺すぞ!」
しかし、矛先は男の意志を反映し
グニャリと乱れ、落ち着かない形を現した。

袖の無い男もアシュナスに
薙刀の如きを構えて叫ぶ。
「聞いてんのかよっ…!?
アシュナス!」

「あの化け物…
タラトットをさっさと始末
してくれよ!」

薙刀の如き刃は袖の無い男の意志を現し
ボタボタと溶け垂れた。

二人の掛け声には
怯えと焦燥感に恐怖、
そしてかの化け物を早急にアシュナスに
退治して欲しいという
懇願の念が多分に含まれていた。

だがこれは狩りの地において
日常的な光景であった。

殆どのフディアトは
タラトット狩りに興味もなく、
出来ることなら避けようとする。

例え狩りの地に来ようとも
どこか及び腰を見せるのが
大概のフディアトである。

だが、狩りの地に来れば理解する。

逃げ腰では命などないことを。

化け物自体が
アシュナスの心を揺らすことは
滅多に無い。

アシュナスにとって
化け物との戦闘はいつものことであった。

だがこのタラトット狩りは
キアンディナが
闇の淵たるヨルグナに侵食されてから
間も無く開始された。

アシュナスの心的負荷は
計り知れない。

それでもなお
キアンディナの淵入りによる
心の揺れをアシュナスは
頑強な心で律していた。

だからこそアシュナスの
現す刀身は傍目からは
微塵の揺れも無いように見えた。

アシュナスは眼前の化け物を
静かに鋭く見つめていた。

その時である。
タラトットは前触れもなく
鱗に覆われた蔓(つる)の如き無数の
鱗肢(りんし)を
三人のフディアト達に向かって
牙をむくように解き放った。