房から解き放たれた
無数の小さな化け物達が
フディアト達に
襲いかかった。

アシュナスは
自在器たるフディアに
霊水で刀を現し
次々と飛び来る化け物を
切り伏せた。

ウィルカルもまた
フディアに現れを生じさせた。

ウィルカルは
側から見れば二本の短刀を
左右両手に持っているように見えた。

アシュナスと
ウィルカルは
互いに背を預け、

翼の如きが生えた化け物を
一体また一体と切り裂いた。

だが、房もまた次々と現れ
翼の如きが生えたタラトットは
その数を増した。

一体一体は大した
強さを持っていないが、
数の多さは如何(いかん)ともし難かった。

アシュナスは次に
フディアに槍を現し何体かの化け物を
団子状に串刺しにした後に地面に投げ払い、
次に弓を現しすぐさま
矢として現した霊水を射った。

矢の如き霊水は
十体程の飛び回る化け物を
射抜いたが
化け物の数減らしとしての
効果はさほど無かった。

ウィルカルは
唖然とした表情で
「ほんとにいくつも
禮画があるんだな。
化け物だなこりゃあ。」
と言った。

アシュナスは
「今はこの飛ぶ化け物どもに
集中した方がいい。」
とウィルカルに言い
改めて刀を現し
飛び回る化け物を次々と
切った。

『こいつらを倒しても
本体には影響が無さそうだな。
矢は霊水の無駄遣いになるから
控えるべきか。』
とアシュナスは思案した。

アシュナスは致命傷以外の
無数の外傷は覚悟した。

ある程度小さな化け物どもからの
攻撃は無視して、
直ぐにでも幹を切り倒し、
種を割れば良い。

そうアシュナスが思うや否や、
化け物達が一斉に
アシュナスとウィルカルを
ぐるりと取り囲み
爪の如きも牙の如きもむき出しにして
襲い迫った。

その時である。
ウィルカルが
『ライサムクロア』と詠唱した。 

それは言葉であり詩であり
禮画であり、現れである。

それこそが
ウィルカルの禮極(れいきょく)であった。

詠唱が終わると
ウィルカルの両手の
フディアはその手を離れ
宙を舞い、回転をしながら
竜巻の如くアシュナスと
ウィルカルの周りを舞い、
取り囲むタラトットを
次々と切り裂き
役目を終えたのちに
再度ウィルカルの両手に収まった。

ウィルカルは
アシュナスに
「少しは鬼神様のお役に立てたかな?」
と言った。

アシュナスは
少し笑みを浮かべ
「大したものだ。」
と言った。

アシュナスは感心していた。
フディアを自らの手から離し、
操作することは容易なことではない、

並のフディアトがそのようなことをすれば、
手から離した瞬間に
現れはたちまち霊水に帰すであろうことは
容易に想像ができたからだ。

アシュナスは
ウィルカルが
この場にいることを心強く思った。

その時である。
「熱い…熱い助けくれ!!!」
とフディアトの一人が叫ぶやいなや
「お…落ちる!!うわぁああ!!」
と別のフディアトが叫んだ。

そして叫び声を上げた
二人のフディアトが倒れた。

他のフディアト達も叫び始め
バタバタと倒れ始めた。

アシュナスが
思案を巡らせたその刹那

アシュナスの目の前に
キアンディナが立っていた。

刀がわずかに揺れた。

だが次の瞬間、
アシュナスは眼光を鋭く戻した。

そして、
「ウィルカ…」と叫びきろうとした
アシュナスの
目の前にヨルグナが放たれていた。

アシュナスはとっさに
理解した。

このヨルグナを避ける術など無いことを。

だが
そのアシュナスの確信は
すぐさま砕かれた。

ウィルカルが
アシュナスに体当たりをしたのだ。

難を逃れた
アシュナスは
一瞬ウィルカルの顔を見た。

ウィルカルはアシュナスに
「鬼神にしちゃあ
慈悲深い目をしてなさる。」
とニヤリと言い残すやいなや
容赦の無いヨルグナに飲み込まれた。
聖水を口に含むどころか
禮筒に手をかける間も無い速度で。

アシュナスの
目の前に
ヨルグナに完全に侵食された
ウィルカルが転がった。

アシュナスは
「ウィルカル…!」と
叫んだ。

アシュナスは
悲痛な表情を浮かべ
ヨルグナに覆われた
ウィルカルに
自身の禮筒に入った
聖水を一滴残らずかけた。

だがヨルグナは
ウィルカルを戻しはしなかった。

アシュナスは
歯を食いしばり
拳を振るわせた。

そしてタラトットに向き直り、
鋭い眼光を向け
一歩一歩
怒りを地に刻みつけるかの如く
歩き出した。

小さな飛び回る
タラトットが群れとなり
アシュナスに襲いかかった。

アシュナスは
まるで嵐の中を歩くような
状態となった。
牙や爪の如きが
アシュナスを切り刻む。

だがアシュナスの目は
タラトットの低き顔の如きに
向けられたまま
踏みしめる力強さは
弱まるどころかむしろ
地を割るほどに増していた。