アシュナスは意識を今に戻し、
棺の中で眠るキアンディナに
また来ることを告げ、
紋章塔に祈りを捧げるゼイゴウに向かって
笠を少し傾け祈り舎を出て、
そのまま東に向かって土庭を歩いた。
キアンディナと幾度となく語り合った
焚き火場を通り過ぎ、
キアンディナの住まいを通過し、
自らの住まいへと到着した。
アシュナスにとっては長い一日であった。
その日は飯種(めしだね)の殻を
砕いて作られた
寝具の上に横たわり、
夢を見ることもなく
泥のように眠りに落ちた。
アシュナスは翌朝起きて、
あたりが薄明るくなってきた頃に
石舟に乗り、
白き鉱山たる水山(みずやま)に向かった。
白き鉱山たる水山は
エニファル村から北にある。
水山の周りには、
まばらに木が生えており、
水山から滲み出る水が、
その木々を生かしているのではないかと
エニファル村では伝えられていた。
焚き火場に用いる木材の多くは、
この木々から調達される。
エニファル村に限らず、
この一帯の地域では
村の生まれる場所の付近に例外なく、
この水山がある。
村が水山の近くに生まれたのか、
あるいは村の傍らに
水山を“作った”のか。
それは村人にも、フディアト達にも
定かではなかった。
賢者はいくつかの
自説か御伽話を語るのみである。
この水山もまた、
狩りの地へ向かう道中に点在する
色とりどりの鉱山と同じく、
古のフディアト達が生み出した
律氷(りっひょう)たるシアレイシェムの
集積なのではないかと語られている。
この白き鉱山でアシュナスは
自身の禮極(れいきょく)を会得した。
アシュナスが禮極を会得した後、
ほどなくしてゼイゴウは身体を欠損し、
フディアトから祈り手となった。
アシュナスは
水山に向かうと四箇所に赴く。
その四箇所とは
滝と川と“受け皿”。
そして井戸である。
アシュナスは
白き鉱山たる水山へ入る直前、
石舟を止めて水山に向かって頭を下げた。
それは一禮(いちれい)と呼ばれる
行為であった。
白き鉱山では、
入山の直前と鉱山から出た後に
一禮をし、
井戸、川、滝、受け皿、
その四箇所すべてにおいて、
所作に入る前に
一禮をするのが
エニファル村の慣わしである。
この慣わしはエニファル村に限らず、
この一帯の地域に
広く見られるものであった。
一禮を済ませたアシュナスは
再び舟を進め入山し、
井戸のほとりに
水甕(みずがめ)を乗せた石舟を
静かに留めた。
鉱山の入り口に最も近いのが
四箇所の内、井戸である。
アシュナスは石舟から降り、
水甕はそのままに井戸を後にして
歩みを進めた。
白き鉱山たる水山は
山と呼ばれているものの
草木はほとんど生えず、
巨大な鉱石がひしめき合う場所である。
わずかな砂や小石は存在していても、
この場所では意味を
持たぬほどに埋もれている。
見上げるほどの鉱物が重なり合い、
その隙間を縫うように道が続いている。
鉱物は透き通るものもあれば、
単なる白色の石塊もあり、
それぞれに無機質でいて
荘厳な存在感を放っていた。
足元に土はなく、
巨大な鉱石の上を歩むこととなる。
踏みしめるたびに硬い感触が返る
道中を歩みながら、
アシュナスはまず滝へと向かった。