The Story of a Writer

かつて、一人の作家がいた。
彼は名もなき場所にて、
まだ形もなさぬ『魂の刻印』として伝わる
幻の書を、直感と信念を頼りに描き続けた。

されどその企ては、
天上の神々すら『あるやなしや』と
首をかしげる、実体なき幻の計画であった。

この世に現れる保証など
どこにもなく、
彼が歩む道は、
霧深き谷を一人進むがごとく
不確かであった。

『これは何なのか?
この行為に意味はあるのか?』

数多の夜、彼はそう自らに問い、
それでもなお、
描き続けることだけを選んだ。

その歩みを支えたのは、
かつて彼が携わった『爆技』として
彼の地に伝わる聖域への恩義であり、
混沌のなかに差す、
わずかな信の光であった。

やがて、『魂の刻印』は
二つの書という形で、
この世に顕現する。
だがその代償として、
彼の魂は削がれ、身体は地に伏し、
ひと月ほど立ち上がれぬほどに摩耗した。

彼が心身を完全に回復するまでに
更に八つの月が通り過ぎた。

かくして彼は
新たなる創造の地へと向かう。

その地にて彼は、
『後の世の君』として知られる
絵物語の兆しを受け、
やがてその道は、
伝承にて『創成の君』と謳われし
未踏の物語世界へと彼を導いた。

この創造の旅の中で、
彼は喪失を経験する。

彼方へと還る光を見送りながらも、
彼はなお沈黙の深淵に抗い、
痕跡という祈りを刻みつづけた。

彼の道は、先の見えぬ闇深き森であった。

しかし、優しく温かな灯火が、
ランタンのごとく彼の足元を照らし、
やがて彼は、
闇の森から抜け出すことができた。

そして、『創成の君』を世に放ちし頃、
彼のもとに一通の召命が届く。

それは
この世に生きた命が、
いかにその幕を閉じるかを描く、
小さな命たちの円環を語る物語に
携わる打診であった。

その物語は、
自身にとって
かけがえのないものになると、
彼は確信した。

この世とは何か。
生とは何か。死とは何か。
彼は考えざるを得ない道を歩いた。
そうせざるを得なかった。
そのことが直感的にこの物語を
理解する助けとなった。

それは過去の歩みが、
彼の内にある土壌を
耕していたからに他ならない。

彼はこれまでの
あらゆる学びを糧とし、
その物語における役割を完遂した後、
新たな叙事詩の芽を育てたとされている。

風が訪れ、彼に言った。
『この世は我のようなもの。』

彼は答えなかった。

風はそよぎながら
小さな声で呟いた、
『だからこそ、希望はある。』

風が去ったあと、
静かな、
そして小さな光だけが残った。